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[ 2017年05月19日 - 21:33 ]

【辰巳ノベルズ『迷探偵イット』第2話】

■ 前回のあらすじ
(刺し身にたんぽぽを乗っける工場で働く糸魚川は、先輩のアツヲから、同僚の馬瑠がクビにになったことを知らされる。工場長の誉吉は更にもう一人誰かクビにしようとしているらしく、自分ではないかと不安に駆られる糸魚川。しかし誉吉がクビにしようとしているのはアツヲだったのだ。糸魚川が誉吉の口からそれを聞かされた翌日、誉吉が何者かに刺される。)
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-05-18233919

※登場人物

糸魚川・・・物語の主人公。この春から工場で働き始める。アツヲにたかられている。

アツヲ・・・工場で働く5年目のベテラン。夢は世界進出。しかし仕事は雑で、昼休みに酒を飲むような暴君。
 
馬瑠・・・糸魚川と同期で入ったが、作業をストップさせることが多いため誉吉にクビにされる。

ワシミウソン・・・工場で働く日系ブラジル人。2話より登場。

ヒョウさん・・・工場のリーダー格。責任感があり、誉吉からの信頼も厚い。

誉吉・・・50代の工場長。いつも作業の遅れに苛立っている。いい加減な仕事をするアツヲをクビにしようとしたところ何者かに刺され……。

保池・・・刑事。2話より登場。





「刺されたって!刺されたって誰に!?どういうことですか!!」

 わけがわからない。なぜ工場長が刺されなくちゃいけないんだ。

「いや、詳しいことはわからないが」

 ヒョウさんの話によるとこうだ。今朝ヒョウさんが一番乗りで出勤してくると、事務所の扉が開かなかった。事務所には工場の作業予定表があるし、あれが無くちゃ今日の作業準備も出来やしない。やむを得ずヒョウさんは扉を蹴破ったところ、工場長が机に突っ伏してたらしい。

「それでびっくりして工場長に近寄ってみると、腹から血を流してたってわけさ。命に別状はないってことだがまだ意識が回復しないらしい。おい見ろ。警察が来たぞ」

 当然今日の作業は中止だった。僕たち作業員15名は部屋一箇所に集められる。待機命令が下されたのだ。

「ちくしょう。ちくしょう。なんでこんなことに」

 ヒョウさんは拳を握りしめ、声を震わせる。

「こんなときにアツヲは何してんだよ。今何時だと思ってるんだ。いくらクビとはいえ今日はまだここの作業員だろうが」

 ヒョウさんの言葉で気付いたが確かにまだアツヲさんが来ていない。

「アツヲガ犯人デ逃走シテルカモシレナイネ(笑)」

 日系ブラジル人のワシミウソンが口を挟む。そんなわけがない!

「僕、ちょっと様子を見てきます」

 いてもたってもいられない。僕はこっそり部屋を抜け出すことにした。



「ガイシャの身元は……ほめきち?変な名前やなぁ。きっと名前が原因で子供のころ虐められたんやろなぁ」

「いえ、誉吉と書いてほめよしです」

「どっちにせよ変な名前やで。それより問題は凶器が見つかっていないことちゃうか」

「ええ。それに、第一発見者によると現場は密室だったらしいです」

「もうええ。お前らの手に負える事件やない。ここはワシに任せてお前ら所轄は下がっとれ」

 ゆっくりと足音を立てず事務所に近づくと、刑事が現場検証をしているのが見えた。

「おい、そこのお前」

 やばい。早速見つかった。逃げようと僕は踵を返す。

「コラ待たんか。何か用があるんか?」

 強い腕力で腕を掴まれる。逃げられない。

「い、いえ。どんな様子かと」

「待機しててくれと言うたやろ。何か気がかりなことでもあるんか?お前、名前は?」

 まずい。このままでは僕が疑われかねない。どうしよう。

「い、糸魚川です。僕はやってません」

「糸魚川……?」

 刑事さんは僕の名前を聞いた途端、黙り込んで何かを考え込んでいる。なんだろう。

「ハッ、思い出した。糸魚川って、あの糸魚川探偵事務所の人間ちゃうか?」

 糸魚川探偵事務所とはとっくに潰れている。僕の祖父は探偵をやっていた。

「……ええ。昔の話ですが」

「君はお孫さんか。大きくなったなぁ。ワシが駆け出しの頃、糸魚川探偵に知恵を拝借しに探偵事務所に何度も足を運んだもんや。小さなお前にも会っとる」

 刑事さんの名前は保池(ぽち)というらしい。変な名前だ。ポチなのに顔まで毛むくじゃらでゴリラのような風貌の人だけど全く記憶にない。なにせ、僕は祖父とは子供の頃から犬猿の仲だったから。

「糸魚川探偵の孫なら立派なDNAを持っとんちゃうか。何か事件について気がついたことはないやろか?」

 勘弁してほしい。あんなクソジジイと同じ血が流れているなんて僕は認めないぞ。でもこの場では何かを言うべきだと思った。疑われたくない。

「実はアツヲさんが来てないんですよ」

「アツヲ?アツヲって誰や?」

 アツヲさんが作業始動の時間になっても出勤してこないのは日常茶飯事だけど、今日に限っては何か怪しいぞ。僕は工場長から昨日聞いた話を刑事さんに打ち明けた。

「なるほどな。アツヲという男はクビにされる予定やったんやな。それは怪しいな」

 アツヲさんは乱暴な人だ。僕はアツヲさんのことを考えてみることにした。あの人は僕をパシリのように扱っているだけでなく、先日は僕の飼っている愛猫にアツヲ2号という変な名前を勝手に付けて、僕がそれを拒否するとヒステリックに怒り始めた。あの人ならヤりかねない。クビにされるくらいならいっそ、と思ったのに違いないのだ。

「問題はアツヲがクビにされることを知っていたかどうかちゃうか。君が聞いたのは昨日やろ?」

 あっ、と僕は思った。そういえば昨日アツヲさんは僕よりも随分前に帰っていったんだ。昼休みのアツヲさんはまさか自分がクビになるなんて思ってもいない素振りだったし、それを知らなければ動機がない。よくよく思い出してみるとアツヲさんは癇癪さえ起こさなければ良い人だった。

「アツヲさんは犯人じゃありませんね。僕は馬瑠さんが怪しいと思います」

 本音だった。馬瑠さんは一昨日クビになったから動機が十分ある。僕は馬瑠さんについて考えてみることにした。あの人は僕と一緒にこの春採用されたとても恰幅の良い人だ。優に100kgはあるだろう。いつもマイペースで隙あらば作業を放り出して煙草を吸いに行く。一度馬瑠さんと休憩が重なったときに、「煙草は身体に悪いですよ」と僕が忠告してみると「すしざんまいには行った?」と謎の返しをされたことがある。怪しい。怪しすぎる。

「馬瑠……この男は容疑者の一人やな。しかし調べによるとこいつは実家が裕福らしいから、ここをクビになったくらいじゃ動機とまでは言えへんのちゃうか」

 あっ、と僕は思った。そういえばアツヲさんが馬瑠さんの財布をロッカーから盗もうとしたのをヒョウさんに咎められ、ちょっとした騒ぎになったことがある。そのときアツヲさんは僕に「あいつの財布に万札がたんまり入っとんの見たんや」と悔しそうに語っていた。どうやら馬瑠さんは金稼ぎが目当てでこの工場に来ているわけではなさそうだった。
 それによくよく思い出してみると、馬瑠さんの興味はいつも煙草か食べ物に向いていて、人間に関心を持つようなタイプでもない。

「こりゃ思ったより難事件かもしれんで」

 刑事さんはそう口にした。果たしてそうだろうか。何かが引っ掛かる。何かを見落としているような。それはなんだろう。

 僕のクソジジイはかつて名探偵と持ち上げられた。だけど晩年は、名探偵が耄碌し迷探偵になったと世間から嘲笑された。当時中学生だった僕はクラスメートから馬鹿にされた苦い思い出がある。とても恥ずかしく、そして悔しかった。だから僕は今でもジジイを恨んでいる。あんなジジイと一緒にされてたまるか。
 この事件、絶対に僕が解決してやる。真実は、いつも一つ!

(続く)



■連載中

糸魚川主役のミステリー『迷探偵イット』

ヘンリク主役の官能小説『蜜壺症候群』
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-05-12224424

仮面舞踏会×泥レス『雄猫たち』
※5月20日スタート

■連載予告(年内)

セカタビ主役の世界紀行ドキュメンタリー『拝啓、親父へ』

チェレヴィチキ主役のラブロマンス『恋い焦がれるマトリョーシカ』

KAGEURA主役のサイコスリラー『復讐するはワイにあり』

メディシンマン主役のインテリヤクザ物語『極道ってやつに足を突っ込んでみた』

その他続々……

■連載終了

仮面舞踏会×フットボール『ガゼッタ・デロ・オネェ』
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-03-12222254
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-02-04215445&id
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-01-09221627



スレッド作成者: 辰巳 (Yaai8KpkT1M)

このトピックへのコメント:
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(05/20 - 16:14) 知り得ずはずのない情報を知っている人…。もしかして、あの人なのかな…?
(05/20 - 15:52) もう一度読み直したら、本来知り得るはずのない情報を知っている人がいますなw
メディシンマン (05/20 - 14:46) 3話目のスレッドで詳しく聞きたいですね
(05/20 - 12:13) もしかして犯人分かった系ですか? もうすでにヒントがあるんですか…。
(05/20 - 10:05) すでに種が蒔かれたのに気づいたが、あえて指摘するのは止めておこうw
(05/20 - 03:22) しかし驚異的な創作ペースですなぁ。書き溜めてあったのを徐々にうpしているのか、はたまた現在進行形で書きまくっているのか・・・。まあどちらにせよ体だけは気を付けてもらいたい
(05/20 - 03:15) 主人公が二重人格だったというオチもありそうですね。続きが早く読みたいw
(05/20 - 00:19) ↓クソワロタ
(05/20 - 00:10) 「迷」なんで、色々考えすぎて、実は自分が犯人だった事を忘れてしまっているパターンも…?
(05/19 - 23:57) 保池→ホッチか。今気付いたわ
辰巳 (05/19 - 23:48) 出題編3話+解決編1話の計4話よ。
(05/19 - 23:21) 第3話で何かしら『転』があるやもしれないのでなんともいえませんが。
(05/19 - 23:19) 今の段階ではヒョウさんが容疑者筆頭ですね。実際に密室だったかどうかはヒョウさんの証言によるものだし。
火薬田 (05/19 - 22:53) 糸魚川が現場を覗きに行くのが怪しい。犯人は現場に戻ってくるっていうだろ
火薬田 (05/19 - 22:53) メディシンマンを登場させろ
メディシンマン (05/19 - 22:52) 自分も今のところはヒョウさんが怪しいと思ってるけどちょっと短絡的なのかもなあ。続きが楽しみだ
(05/19 - 22:48) 1話を読んだ感じではヒョウさんが怪しいと思ったのですが、動機がやや単純すぎますかねぇ。
火薬田 (05/19 - 22:45) 俺の推理では犯人は糸魚川
(05/19 - 22:45) ジジイが犯人だったらひどすぎるw
(05/19 - 22:43) 今のところ、僕の中ではヒョウさんと、ジジイ。この2人が怪しいですねぇ。
(05/19 - 22:33) ヒョウさんだって、リーダー格であって、工場長では無い。 工場長が刺されたら、次に工場長に昇格するにはヒョウさん。もしかしたら工場長に早く昇格したいと言う動機かも。
(05/19 - 22:30) 動機があるのはバルとアッヲだけだな
(05/19 - 22:29) ワシミウソンさんの出番の少なさ…。これは何か伏線か!? 
(05/19 - 22:26) 締めが素晴らしい。 それにしても分かりませんな。何かダイイニングメッセージがあれば…。 ここでジジイが出てきた以上、ジジイも何か関与しているのでは…。
メディシンマン (05/19 - 22:24) 連載予告に作品が増えている。『極道ってやつに足を突っ込んでみた』楽しみだなあ
(05/19 - 22:21) 愛猫のくだり…。よく見てますわ(笑) 確かにアッヲさんに名前を変えろと言われた(笑)
(05/19 - 22:20) ジジイを絡ませたのは面白い(笑)
火薬田 (05/19 - 22:08) 自首しろアツヲ
コーク (05/19 - 22:06) アッツwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwやっぱりアツヲってクズやわ〜wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
(05/19 - 22:04) ワロス
火薬田 (05/19 - 22:03) アツヲ逃走wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
(05/19 - 22:01) これ全部で何話?
(05/19 - 21:54) バルはアホのふりした有能と予想
(05/19 - 21:53) やっぱりバルが怪しいな
(05/19 - 21:46) 辰巳キレキレ過ぎるw
Revigo (05/19 - 21:40) 精力的だなぁ
(05/19 - 21:36) 面白い