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[ 2017年08月26日 - 22:05 ]

【辰巳N『極道ってやつに足を突っ込んでみた』第1話】

■ メディシンマン主役のインテリヤクザ物語


薬師丸薬男(やくしまるやくお)・・・本作の主人公。誉吉会の構成員

火厄丸厄男(かやくまるやくお)・・・誉吉会の構成員。薬師丸の兄貴分

四条軍司・・・誉吉会の構成員。若頭






「いっ、いてぇよう」

 その昼、薬師丸は路地裏のアスファルトに倒れていた。正確には腹に一撃を食らい、その衝撃で突っ伏していた。タマではない。拳一発だ。だから例えば、日頃から身体を鍛えている人間にとってはさほど致命的なダメージにはならないだろう。しかし薬師丸薬男という軟弱な肉体を持つ男に限っては、30分以上悶絶しても尚、痛みがジンジンと脇腹を突くのである。

 その時、誰かがこちらに駆け付けてくる気配を辛うじて薬師丸は感じ取った。敵か?仲間か?意識が朦朧として目が開けられない。

「ようようよう、へばってんじゃねえよ。たかが取り立ててでボコられてちゃあやっていけねえぞ、これからよう」

 声で火厄丸だとわかった。

「アニキ、救急車呼んでくれませんかねぇ。これ骨折れてますよ絶対」

 薬師丸が蚊の鳴くような声で助けを乞うと、火厄丸は恫喝した。

「バカ言っちゃいけねえよ!ようようよう、取り立てのノルマあんだからよう、次行くぞコンニャロー」

 火厄丸は薬師丸を引き摺り、次の取り立て場所へと歩き出そうとする。

「ようよう、次は俺が表から行くから、お前は裏口抑えとけよう。今度逃したら若頭に殺されんぞ」

 若頭とは四条軍司のことだ。彼の型破りな制裁が頭を過り、薬師丸は戦慄を覚えた。

「へ、へい。もう歩けます。次は任せてくだせえ」

 薬師丸は苦痛に耐え、何とか自分の足で立ち上がった。

 
 半年前、薬師丸は10年間務めた所謂IT土方と揶揄される仕事を辞め、晴れて無職になった。業界から足を洗ったのだ。
 寝る間も無ければ飯を食う間も無いという生活に、薬師丸はもう耐えられなかった。しかもデスクに座りっぱなしだから不健康になる一方である。薬師丸はそのせいで痔にも悩まされていた。だから無職になった理由を周囲から問われれば、薬師丸は涼しい顔でこう答えていた。「自由と健康を得る為だ」と。しかし、3ヶ月で貯金は尽きた。ストレスから開放されたことが彼の自制心を奪ったのか、薬師丸はトトカルチョに金を注ぎ込んでしまったのだ。

 金が無くなれば働くしか無い。当たり前のことに気付いた薬師丸は再就職先を探した。次はもっと楽な仕事がしたい。しかし薬師丸の安直な考えは現実の前では厳しかった。ITしか知らない薬師丸には、その他の業界など未知の領域だ。幾つかの一流企業に履歴書を送付してみたが、その全てが不採用だった。中には不採用通知さえ送ってこない不届きな企業もあり、薬師丸は怒りに打ち震えた。

 そんな折、電車の中吊り広告に掲載された求人が薬師丸の目に留まり、応募してみることに決めた。事前にインターネットで会社名を調べてみると、どうやら小さなビルを間借りしている商社のようだ。もちろん一流企業とは程遠い。しかしこの程度の規模の事務ならば、かつての環境ほど忙しなく仕事に追われることもないだろう。薬師丸はそう直感した。善は急げと商社に電話してみると「面接するから履歴書を持参するように」とのことだった。書類選考が無い。つまるところ話が早い。薬師丸はガッツポーズを決め、それから半日掛けて完璧な履歴書を仕上げた。

 面接当日、逸る気持ちを抑えられない薬師丸は朝一番で家へ飛び出し、指定された時間の1時間前には最寄り駅に到着していた。寂れたビルが立ち並ぶ光景を見て薬師丸はいささか落胆したが、これでも一応はオフィス街と言えなくとも無い。

「一流企業よりも、働きやすさを求めるんだ」

 薬師丸はそう自分に言い聞かせ、ビルのチャイムを鳴らした。

「へい」

 インターホンからぶっきらぼうな男の声が聞こえた。ふと目線を上にやると、防犯カメラのレンズがしっかりと薬師丸を捉えていた。寂れたビルとはいえ、ここのセキュリティは万全のようだな。薬師丸は感心した。

「薬師丸という者です。面接をして頂きたく、馳せ参じました」

 沈黙が続いたが、暫くするとドアが開いた。薬師丸が「お邪魔しまーす」と大きな声で挨拶し、中に入ろうとすると背後から肩を掴まれた。

 振り返るとスキンヘッドの男が数名、薬師丸の顔をジロジロと見ていた。

 「お兄さん、まだ入らないで。ここでチェックするから」

 この男たちは何処から来たのだろうという疑問はさておき、ビルの関係者であることは確かだろう。薬師丸は従った。
 本来なら入念なボディチェックをされていることに更に大きな疑問を抱くべきだったのだが、この間、薬師丸は彼らの服装に気を取られていた。ジャージである。内勤だというのにスーツ出勤が義務であった以前の職場と違い、ここではジャージが許されているのだ。なんという自由。圧倒的自由。フリーダム。薬師丸は感動していた。

 その後、ようやく薬師丸は中に通された。年季入った外装と比べて、中は入念にリフォームされていた。しかし、壁に空いた幾つかの小穴には薬師丸は気付くことが出来なかった。

 応接間のような場所に通された薬師丸はその異様な雰囲気に身体を固くした。女の姿は一人も見当たらず、数名の男たちが直立不動で立っている。中央にはワニ皮のソファーがあり、そこには殺し屋のような雰囲気を醸し出す男が腰を下ろし、薬師丸の動きじっと見つめている。

「薬師丸さんか。名前は覚えたよ。面接ねぇ。それじゃあ始めようか」

 彼の背後、壁に掛けられた「誉吉会」と書かれた額縁を見て、薬師丸はようやく自分が間違えてヤクザのビルに入ってしまったのだと悟った。その瞬間、薬師丸は失禁した。

(続く)




スレッド作成者: 辰巳 (Yaai8KpkT1M)

このトピックへのコメント:
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(08/27 - 01:07) 長野県は松村沙友理の彼氏として登場するやろ
(08/27 - 01:04) くっそおもろしいやんこれ
(08/27 - 00:28) 長野県はどこに登場するの?
(08/27 - 00:00) なんとなく火薬田は脇役って時点で死亡フラグ立ってるな
メディシンマン (08/26 - 23:56) スターシステムってやつではないかと
(08/26 - 23:51) ていうか誉吉って前刺されて死ななかったか
(08/26 - 23:50) まず名前で吹いた
メディシンマン (08/26 - 23:48) 薬師丸小者すぎwwwwwwwwww
メディシンマン (08/26 - 23:26) 先にマトリョーシカのやつ見てこよ
(08/26 - 23:03) 草不可避